日本全土へ拡散する放射能被曝汚染に巻き込まれる北奥羽の被曝防護のあり方への一考察
〜『人間と環境への低レベル放射能の脅威―「ペトカウ効果」と呼ばれる低線量の長時間による被曝の脅威についてー福島原発放射能汚染を考えるために―』をレンズとして見る〜
民間人が北奥羽美の国秋田の被曝防護を研究推進する上で、以下の記事が参考になります。
福島の「集団疎開訴訟」のように、すでに低線量被曝・内部被曝を争点とする本格的な闘いがはじまり、こうした闘いがいやおうなく広がっています。放射能汚染時代の私たち民衆の武器となるタイムリーな書籍が発売されていました。
94歳になる肥田舜太郎博士に敬意を表して宣伝します。訳者:肥田舜太郎、竹野内真理両氏署名の力強い「まえがき」全文を以下に紹介します。
ここには福島原発事故原因の評価から、被爆国日本にある原発の矛盾、今後の賠償問題について、モニタリングポストやホールボディーカウンタの限界、内部被曝と外部被曝の違い、「安全基準値」批判、そして「ペトカウ効果」とは何か、にいたるまで、低線量被曝をめぐって私たちが直面している重要な指摘がつづられています。読み応えのある「まえがき」です。
ぜひ本書をご購読ください。
表紙と帯に、このように書かれています。
=恐るべき低線量内部被曝
原発・核実験の放射能汚染を徹底検証した世界的大労作の初邦訳!
いま、福島原発事故の放射能汚染の深刻さを見定めるために
そして未来を生きる子どもたちのために
ノーベル賞に匹敵するといわれる「ペトカウ効果」をつぶさに紹介=
新刊
『人間と環境への低レベル放射能の脅威―福島原発放射能汚染を考えるために―』ラルフ・グロイブ、アーネスト・スターングラス[著]、肥田舜太郎、竹野内真理[訳](あけび書房、3990円)
=======訳者「まえがき」全文(改行しています)========
□□□福島原発事故のさなかに―本書の概略と意義―□□□
本書は、ラルフ・グロイブとアーネスト・スターングラスの著書『The Petkau Effect』(ペトカウ効果)の初の邦訳出版である。
詳細は後述するが、「ペトカウ効果」とは、約20年間、カナダ原子力公社の研究所で医学・生物・物理学主任だった、アブラム・ペトカウ博士が発見した、低線量放射線による生体レベル、細胞レベル、分子レベルでの影響のことである(一部の研究者からはノーベル賞に値すると言われている)。本書は、「ペトカウ効果」を詳細に紹介すると同時に、原爆、核実験、そして原子力発電所がもたらす様々な放射線被害、および今日までの政府当局による放射線防護基準の欠陥を、世界各国の数多くの研究者の論文と当局側からの発表という双方からの視点を交え、膨大な量の貴重な資料をもとに記している。
■被爆国で地震大国の日本に原発があることの矛盾
ところで、奇しくもこの本の下刷りにかかろうとしていた2011年3月11日、マグニチュード9.0という東日本大震災が発生し、東北では地震と津波により多大な犠牲者を生み出した。
悲劇に追い討ちをかけたのが、福島原発の大事故である。外部電源喪失、水素爆発、燃料棒破損、核燃料プール冷却不能という尋常でない事態に至っている。そのうえ、余震により、原発の何十倍以上もの放射能があるという六ヶ所村再処理工場まで外部電源喪失という、一歩間違えれば日本全体が壊滅状態になるところまで一時期達してしまった。
今回の事故はなぜか「想定外の津波」のせいにばかりされているが、これは事実と異なる。そもそも今回の電源喪失の直接原因は「地震」であり、津波の及ばなかった場所に立っていた受電鉄塔の倒壊によって引き起こされた。
そして電気系統も破壊されたため、電源車が来ても役に立たなかった。さらに、1号炉では、地震発生の夜、原子炉建屋内に高濃度の放射能漏れがあり、配管か重要機器いずれかの破損の可能性が高く、3号炉でも、圧力の激減から冷却系の配管が破損したと見られている。両方とも水素爆発の前の話だ。地震・津波による重要配管の破損は、全国の原発すべての耐震安全性にかかわる緊急課題である。
それでも政府と電力会社は、国の原子力政策を続行する予定である。東京電力は、柏崎刈羽原発のうち1、5、6、7号機を、3月11日以降もそのまま動かしている。2007年に中越沖地震で地盤自体が変形し、しかも原発の機器そのものへの応力や塑性変形が危惧されているにもかかわらずである。
伊方原発は世界有数の大活断層「中央構造線」の目の前であり、敦賀、もんじゅ、美浜、六ヶ所再処理工場はなんと敷地内に活断層が見つかっている。
まともな感覚であれば、これらの原発および再処理工場は、冷却以外の運転をすべて停止し、さらには現存する使用済み核燃料の安全性をいかに高めるかの対策を早急に練るのが常識だと思う。これでは運転中だった1から3号炉、そして運転中でなかった4号炉の事故から、なにも学んだことにならない。
ところで、非常に基本的なことなのだが、原発がなくとも電力は足りている(マスコミが報道しないので常々不思議に思っていることなのだが)。
毎年出ている『電気事業便覧』で、火力・水力の設備能力を足し算すれば、8月最大電力需要もほぼ賄えているのだ。理論的かつ冷静に対応するのなら、休止中の火力・水力の発電設備をフル稼働させ、すべての原発は即刻停止されるべきである。第2の福島を決して起こさせてはならぬ。
そもそも被爆国であり地震大国である日本に、なぜ原発が54基もあるのだろう。
日本の原発第一号は英国から輸入されたものだが、英国の保険会社ロイズは、日本は地震大国であること、原子力が確立された技術でないことから、原発の保険を引き受けることを拒否した。これを受けて国は原子力をあきらめるのではなく、大事故が起こった場合に電力会社が負担しきれない部分を国(つまり国民)が負担するという、いわば原子力産業を守るための「原子力損害賠償法」の制定に向け、原子力事故の試算を当時の科学技術庁に委託した。当時(1960年)の国家予算の2.2倍の損害が最悪の場合生じるというとんでもない結果が出たという。
ところが驚くべきことに、当時の国会は、上記の試算にもかかわらず、原発を導入してしまった。ちなみに上記の試算で、原発事故の放射能による死亡者の補償料はわずか80万円超だったという。なんという安い国民の命だろう。しかもその試算には、被曝の影響が強い子供や胎児が無視されていた。また、原発の事故で最も大きい健康被害が、事故の数年後に出る晩発性影響であるが、こちらもまったく考慮されていなかった。
今回の賠償問題でも、因果関係が立証されないからと、晩発性影響による健康被害が補償されない事態にならないで欲しい。多額にのぼる賠償金だが、電力業界はまず再処理等の積立金2兆5000億円および宣伝広告費を、国は毎年の原子力予算4,500億円を、後始末と賠償のためできる限り多く割り当てるのはどうか。また、「同時多発メルトダウン」を手際よく防げた政治家がいるはずもないのに、首相1人をスケープゴートにする体制もおかしい。
それよりも、今まで原子力を推進してきた政治家、官僚、企業、学者、文化人、マスコミ各社をリストアップし、自発的な寄付を行ってもらう「福島原発事故被害者のための基金」のようなものを設立したらどうだろうか。そうでなければ、本当の意味での責任の所在は明らかにならない。実際今回の事故で自ら謝罪表明した推進科学者も少数ながら一部おられる(この方々は少なくとも立派である)。今まで原発を推進してこられてきた方で、福島の人々の苦しみを毎日報道で見て、良心の呵責を感じない人は少ないのではないだろうか。原発被災者の受けた多大な実害を少しでも償う場が設けられるべきである。
原発の最大の問題は被曝問題だ。福島の住民、原発事故収束にあたっている被曝作業員のことを思うと胸が痛む。しかし、被曝作業員の問題は原発導入当初から日常的に続いている大問題であり、我々皆が真剣に考えるべき問題なのである。アスベストの製造は禁止されている。そうならば同様に、被曝労働者問題だけからしても、原子力政策は根本から問われるべきものである。
そもそも被曝問題の原点ともいえる、広島・長崎での被爆者の現実についてもあまりにも知られていない。放射性物質のちりや雨により被曝した入市被爆者が原爆症認定裁判で勝利するようになったのは、2008年の大阪地裁が初めてであった。それまでは2km以内の同心円内の被曝者しか認められていなかったのである。放射能を帯びたちりが人間が引いた円上で止まってくれるとする前提は、もちろん科学ではなく、政治による判断であった(それは今回の福島原発事故への特に初期における政府対応にも通じるところがある)。
ちなみにこの裁判で、その科学的な根拠として挙げられたのが、本書の主題である「ペトカウ効果」だった。
広島・長崎は過去のこととして、あまり注目されない今、日本でほとんど知られていない、本書のテーマである「ペトカウ効果」が、被爆者を実は現在も救っているのである。
■ただちに健康被害はない!?
放射能が環境中に拡散される中、政府や「専門家」は「ただちに健康には被害はない」の大合唱だ。妊婦や子供への対策は決して十分とはいえない。胎児や幼児の将来にわたる健康を真に考えるなら、汚染された土地から、彼らをいち早く退避させるべきである。
また、放射能は大気、水、飲食物を通し、私たちの体にさまざまな経路を通って取り込まれる。当たり前の話であるが、ある測定値が基準値以下であっても、全数検査が不可能であり、そして個人個人の総被曝量の計算が不可能である限り、どうして絶対の安全が担保されようか。放射能は、土壌、大気、飲料水や食品中に不均一に混入する。魚などは回遊するし、魚種によって生態濃縮の機構も異なる。また、全国流通網を見れば、食品の原材料をすべてトラッキングすることは不可能だ。
放射能に一番弱い赤ん坊は、決してマスクをじっとつけていてはくれない。既に環境中の化学物質、環境ホルモン、食品添加物などで健康が劣化しつつある子供たちに、どのような複合作用をもたらすだろう。
専門家の提示する数値自体にも疑問の声があがっている。4月19日、文部科学省は年20ミリシーベルトという基準を福島県教育委員会に通知した。20ミリシーベルトが児童にとっていかに高い数値かは、本書を読めばわかるであろう。また、各地の測定値の比較の対象としてCTなどが引き合いに出されているが、外部被曝のCTと比較するのは正しくない。そして、CTはリスクが高いという点、そもそも日本は医療被曝が高く、日本のガンの4.4%は医療検査が原因であるという説もあり、近年問題になっている。
重要な点として、放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線などがあるが、モニタリングポストで計測できるのは貫通力の高いガンマ線のみだ。
にもかかわらず、安全を高らかに宣言している報道も何度も見受けた。そもそも飛距離が短く、いったん体内に取り込まれると非常に危険なアルファ線、ベータ線によるより危険な内部被曝は計測できない。ホールボディーカウンタをもってしても、ガンマ線しか計れず、体内に取り込んでしまったアルファ線とベータ線は計れないので、計測値は実際の被曝量より低い(なぜマスコミがこれをあまり言わないのか不思議である)。この外部被曝と内部被曝の違いは非常に重要で、本書でも詳述されているので是非参考にしてほしい。
最近多くの一般市民も不安を抱き始めている。この不安はまさに根拠のある不安である。確かに“ただちに”健康に害はないかもしれない。しかし、放射線の本当の恐怖は、内部被曝によって後から生じる晩発性影響である。内部被曝は外部被曝と違った作用で、長期間人体を損傷し続ける。
おそらく今後、健康障害が地域住民から出てきたら、チェルノブイリでそうであったように、「体の具合が悪くなるのは、放射能を恐れ過ぎてのストレスからくるものだ」と、心配しすぎる当人が悪いかのような言い方をする専門家が出てくるのだろう。これについては以下の4つの点を想起する必要がある。
まず、そもそもストレスを起こさせるような原発事故という人災を起こさせた責任がどこにあるのかということ、
2番目に精神的ストレスによっても本書のテーマである活性酸素の生成により、身体的健康障害につながること、
そして3番目に放射線影響のひとつとして、特に発達中の脳には精神・神経系の障害を引き起こす作用があること、である。
そして4番目には、実際に身体的な障害が生じ、それが精神的ストレスとなるという現象が大いにあり得るということである。
チェルノブイリでも、実際は身体的なものが主で、精神的なものは従であるのに、原発事故の影響をなるべく少なく見せようと、精神的なもののみとした専門家が数多くいたのではなかろうか。子供の甲状腺ガン以外にガンが発生していないという理論には無理がある。
数日前にも、ストロンチウム90が80km離れた場所でも検出されたが、微量なので健康に被害はない、というニュースが流れた。ストロンチウム90とはかつてレイチェル・カーソンが、化学物質と複合作用して環境に影響を及ぼす「邪悪な相棒」と称した、骨髄にも到達しガンを引き起こす危険な物質だ。
米国では、核実験時代、子供の乳歯の中のストロンチウム90の含有量が増大した。米国の各地の母親たちは子供たちの健康に害が及ぶことに危機感を覚え、各地で何十万本もの乳歯を集めた。子を想う母親たちの活動は、部分的核実験禁止条約締結への一助となった。(乳歯のストロンチウム90の調査は、現在も行なわれている。http://www.radiation.org/)
英科学誌『ネイチャー』は、汚染除去は場合によっては100年要するという専門家の意見を発表した。訳者は、現在進行中の福島県やその近郊の県での農家や漁業者の窮乏を痛々しい思いで見聞きしている。彼らは国による万全の補償を受ける権利があるし、一日も早く、そして長期的に補償してほしい。
しかし、採取された農作物や魚介類を、農業者・漁業者への援助のために積極的に受け入れることは賛成できない。長期的な視点で考えると、仮にそれによって将来、特に放射能に脆弱な子供や若者に健康障害が現れた場合、労働力の低下や国全体の医療費の増大により、逆に被害者への補償が十分行えなくなる可能性もある。もちろん健康問題によって降りかかる個人の苦しみは、いかなる補償によっても解決できない。よって現実問題として、すべての市民、特に子供、若者、今後子供をつくる可能性のある年代の人々は、なるべく内部被曝を避ける生活を心がける必要がある。
内部被曝を避ける必要性を説くことは、本書の大目的のひとつである。
■著者のラルフ・グロイブ氏ついて
著者であるスイスのラルフ・グロイブ氏については、著作の日本語版が今回初めてということもあり、あまりなじみがない名前かもしれない。
そこで巻末に、亡くなる前年のインタビュー記事を抜粋した形で掲載させてもらうことにした。
グロイブ氏は、スリーマイル島事故の前に『ジェントルキラー:仮面をはずした原子力発電所』(1972年)という著作を残し、チェルノブイリ事故の前に本書の初版を出した。氏の先見の明に脱帽するばかりである。
グロイブ氏の先見の明は、本書にも発揮されている。近年一部の専門家から信憑性を問われている「CO2温暖化説」により、原子力産業がマスコミを使って巻き返そうとしていること、そして最近注目を浴び、本書の主題でもある「放射線と酸化ストレス」問題への喚起は、本書が20年近くたった今も全く古くなっていないどころか、今も先取りした内容であることを示すものである。
被曝により生じる活性酸素、過酸化脂質により引き起こされる数多くの疾病への言及、ミトコンドリアなどの細胞小器官への影響は、現在進行中の研究と重なるものである。さらに氏は、SODなどの酵素、ビタミン、ミネラルなどの抗酸化物質の列挙することで、被曝後の生体内における防御機構にまで触れているのである。
また氏は、放射線の影響を植物にまで広げて論じている。ドイツの著名な科学者ライヘルトは、森林障害と核施設との間に顕著な相関が見られることを1985年発見し、欧州で一大センセーションを巻き起こした。グロイブ氏はさらに、インドの研究まで引用しながら、従来型の汚染物質と放射能の複合影響という、非常に大事な問題を指摘している。
■スターングラス博士による放射線被曝歴史の概観
同様に、アーネスト・スターングラス博士による序文も、新規性に富み、放射線被曝の歴史的概要をカバーする読み応えのあるものとなっている。日本語版に寄せた序文も昨年書いてくださり、その中で博士は、日本において原子力政策からの転換をはかることで、ガンの蔓延を食い止め、未来世代の健康を守る大切さを強調している。ちなみに博士は、今回の福島事故後も安否を気遣うメールをいち早くお送りくださった。
博士の「低レベル放射線の人体影響」に対する執念とも言える研究は、広島原爆による放射線影響を過小評価した論文がきっかけであったという。博士は、米国における核実験からの死の灰により、幼児の過剰死が起こっていることをいち早く発表した。その後、原子炉周辺でも同様に過剰死や健康障害が起こっていることも発見し、名著『Secret Fallout』(邦題『赤ん坊をおそう放
射能』)を著した。
その後、米国の著名な統計学者ジェイ. M. グールドと非営利団体「放射線と公衆衛生プロジェクト(RPHP)」を設立した。
博士はさらに研究を通じ、一見健康な人々の間でも、学力低下や、免疫力の低下、感染症へのかかりやすさなどで、社会全体としての質の劣化が生じているという理論を展開している。
■不完全な放射線防護基準
グロイブは、本書の読者を幅広く設定している。初心者のために基礎を提示すると同時に、体制側にある放射線防護機関が発表した文献とそれと対峙する膨大な数の研究論文を通じ、専門家にも読み応えのある議論を展開している。分量的にも体制派と批判派の引用文献が同じくらいの量があり、このような書物は今までなかったと思う。
まず、放射線防護のバイブルともいえる日本の被爆者調査における欠点を指摘し、各国政府などから融資を受けている放射線防護機関の姿勢そのものを批判する。歴史を紐解けば、その時々に「安全である」とされてきた許容量が実は危険であったことが判明したことが、幾度もあったわけであり、このことを我々は忘れてはなるまい。
また現在、放射線による影響は、ガンの発生にばかり注目され、動物実験では立証されていても、人間ではまだ立証されていない遺伝的影響はおざなりになりつつある。グロイブは「遺伝子情報は我々の最も貴重な財産である」、「人類は遺伝的財産をかなりぞんざいに扱っている」とその重要性を強調する。
同時に「ねずみに頭痛があるかどうかを聞くことはできない」というユーモラスな表現を用いながら、明らかな先天性異常は氷山の一角であること、劣性遺伝は何世代も気づかれないこともあること、様々な疾病に遺伝的要素が存在するということなど、重要な論点の数々にも言及している。
さて、恐ろしいのが非人間的なコストベネフィット計算だ。10ミリシーベルトが引き起こす疾病の費用が1人当たり12~120米ドルとは、なんとも生々しい。そこには医療費に付随して発生する、「人としての苦悩は計算されていないし、そもそも人の健康問題や命とは、金銭に換えることのできないもの」である。そして、放射線に弱い子供たちや核廃棄物を管理せねばならない未来世代を考えれば、原子力の「受益者と費用負担者は同一ではない」。原子力はまさに将来の世代を無視した技術なのだ。
マンハッタン計画でウラン233とプルトニウムの抽出に成功し、ローレンスリバモア研究所元副所長であった著名な科学者ジョン・ゴフマン博士は、米国原子力委員会から造反し、放射線防護法を「殺人許可証」と呼んだ。
そして、低線量放射線のリスクを知っている専門家は、「過失と無責任さによる人道に反する罪で、ニュールンベルグのような裁判にかけられる候補者である」とまで言い放っている。
■放射線と健康障害の疫学調査
「放射性降下物による健康障害」の章でグロイブは、自然放射能の存在で人工放射能の放出を正当化することはできない、と前置きする。そして、スターングラス博士ら複数の科学者たちが、疫学調査により、核実験後に各地で疾病や死亡率が上昇しているという事実を列挙している。その中には、戦前に比べ小児がんが6倍に増えているという、日本癌学会の瀬木三雄氏によるショッキングなデータも含まれている。
さらに、スターングラス博士は、原発の風下における乳児死亡率やガン死亡率の増加を見出した。原発周辺における健康被害の発見は、博士に限られたものではなく、複数の著名な科学者たちにより確かめられていく。
被害についての実相があまり話題にのぼらないスリーマイル島事故でも、スターングラス博士は多数の過剰死があったことを見出し、これは数年のちにグールドらが行なった疫学調査でも裏付けられた。
「第2版のあとがき」にもあるが、グールドとスターングラスによる疫学調査は、さらに米国全体における原子炉周辺の乳ガン、低体重児、免疫不全問題にまで発展されている。
■ペトカウ効果とは何か
さて、本書のメインテーマである「ペトカウ効果」とは、カナダ原子力公社研究所の医学・生物物理学主任アブラム・ペトカウ博士が、低線量放射線による分子生物学的な人体影響のメカニズムを説明したものである。
放射線の人体に対する影響の医学的な解明を阻んでいた壁の一つは、放射線に対する細胞膜の強大な障壁だった。アブラム・ペトカウは一九七二年、マニトバにあるカナダ原子力委員会のホワイトシェル研究所で全くの偶然から、ノーベル賞に匹敵する次のような大発見をした。即ち、「液体の中に置かれた細胞は、高線量放射線による頻回の反復放射よりも、低線量放射線を長時間、放射することによって容易に細胞膜を破壊することができる」ことを実験で確かめたのである。 ・・・略・・・ 彼は何度も同じ実験を繰り返してその都度、同じ結果を得た。そして、放射時間を長く延ばせば延ばすほど、細胞膜破壊に必要な放射線量が少なくて済むことを確かめた。こうして、「長時間、低線量放射線を照射する方が、高線量放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊する」ことが、確かな根拠を持って証明されたのである。これが、これまでの考えを180度転換させた「ペトカウ効果」と呼ばれる学説である。
本書に著されているペトカウが発見した事象を列記する。(ただし訳者らは博士の92の論文を読んだわけでないので、博士の発見は以下に限らない。)
1.放射線によっても生じる活性酸素*1は、細胞膜の脂質と作用して過酸化脂質*2を生成し、細胞を損傷する。
低線量では活性酸素の密度が低く、再結合する割合が少なく効率よく細胞膜に達し、細胞膜に達すると連鎖反応が起こるため、放射線の影響は低線量で急激に高まる。
2.上記の事象は、活性酸素を消去する作用のある酵素であるSOD*3を投入すると減少または観察されなくなることから、放射線起因の活性酸素によるメカニズムであることが裏付けられている。
3.個体レベルでは、活性酸素及びその反応によって生じる過酸化脂質などにより、ガン、動脈硬化、心疾患、脳梗塞を含む多くの病気や老化が引き起こされる。
4.ペトカウは人工膜のみでなく、幹細胞膜、白血球膜などを含む生体膜を使った実験でも同様の結果を得ている。
5.人体中のSODなどの酵素や食物中のビタミンやミネラル類などの抗酸化物質は、活性酸素に対する防御機能があり、被曝後の影響低減の可能性となりうる。
海外ではペトカウ効果は、様々な研究者が引用しており、現在でもペトカウ博士の発見を発展させている研究者もおり、その重要な発見の数々は、今日の研究に引き継がれている。しかし、日本ではペトカウ効果はほとんど知られていない。ただし、ペトカウの発見を部分的に裏付けている研究者も出ており、これら周辺の事項は、あとがきに詳細を述べることとしたい。
ところで、ペトカウ博士は、自然流産した胎盤においてSOD活動量(医学用語で誘導能)が不足していたという、非常に重大な発見をした。さらに、被曝労働者におけるSOD誘導能の研究途中の1990年、彼が主任を勤める研究所を閉鎖させられてしまった。以後、ペトカウ博士は地元で医師として働き、放射線研究の世界に戻ることは二度となかった。我々は偶然、ペトカウ博士の診療所の連絡先を見つけ、昨年11月、博士の診療所に問い合わせの手紙を送っていた。しかし、そのお返事をいただかないまま、今年の1月、博士は急逝されてしまった。大変ショックで残念なことであった。
次ページにペトカウ博士の略歴を添えさせてもらい、心からのご冥福をお祈りしたい。
2011年6月9日 肥田舜太郎、竹野内真理
*1 活性酸素とは、元来、生体中に存在し、酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総称で、細菌やウイルスなどの異物が体内に侵入したとき、殺菌作用によって体を守る役目をする物質である。しかし、増加しすぎると、逆に自分の体の組織をも異物のように攻撃するという、諸刃の剣の性質を持つ。狭義では、O2-(スーパーオキシド)、OH・(ヒドロキシラジカル)、H2O2(過酸化水素)、1O2(一重項酸素)の4種類があり、広義では窒素酸化物、オゾン、過酸化脂質などを含む。
*2 過酸化脂質は、活性酸素が脂質と反応して生成される物質で、反応は弱いが体外に排出されにくく、組織や細胞の表面や壁に付着し、徐々に外側から内部に向かって細胞を傷つけ破壊し、様々な病気の原因となる。
*3 スーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)とは、殺菌能力のある活性酸素であるO2-(スーパーオキシド)が必要以上に産出された時、還元によって除去する酵素で、銅-亜鉛SOD、マンガンSOD、鉄SODの三種類がある。
O2-(スーパーオキシド)は反応性が比較的低いが、微量の鉄や銅などの遷移金属と共に障害性の強いOH・(ヒドロキシラジカル)を発生させる。そのため、活性酸素発生の最上流に位置するO2-(スーパーオキシド)を消去するSODの役割は大きい。
迫り来る低線量レベル放射線の脅威に敢然と立ち向かい、被曝防護に備え、故郷秋田そして東北の大自然の保全と人々の自由と平和を希求し、本投稿は下記ブログに画像補足添付、本文強調彩色しています。民間人が自律して放射線防護できることを伝えたい。そして、少しでも被曝によるリスクを低減できることを知って、各人が被曝防護に努めれるようにと願っています。本文は、原文のままです。急逝したペトカワ博士の意思を継承した、素晴らしい先輩諸氏の投稿に感謝しています!We are the World!
転載)人間と環境への低レベル放射能の脅威―福島原発放射能汚染を考えるために―/あけび書房
http://blog.goo.ne.jp/harumi-s_2005/e/03cfe6d28b04a8e518ee6a9d73b8e95c
人間と環境への低レベル放射能の脅威 ペトカウ効果ーさてはてメモ帳 Imagine & Think!ーexcite blog
『被曝防護方法のいくつか--食事的アプローチ--』へつづく
.........細胞膜の酸化破壊を抑えるには、 .........と、そして以下の.......反応などが極めて重要です。(もちろん、結局は、遺伝子の破壊を抑えることにもつながります).......
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