8. 補遺:深刻化する低線量被曝の実態と被曝防護 その1

出典:封印された『放射能』の恐怖

 

放射線とは何か

放射線とは何でしょう?それは一種のエネルギーの塊です。電磁波のX線やガンマ線は、とても強力なエネルギーを持つ、目に見えない光です。この電磁波は分子集合体にぶつかると、分子の骨組みを破壊し、電子飛跡を生み出します。

この電子飛跡はとても強力なもので、連続的に、分子の骨組みを破壊していきます。例えば、水というンンプルな分子を壊すと、HとOHに分かれますが、マイナスの電荷を持つ電子はOの酸素と結合します。そのため、OH-というイオンが生み出されるのです。電子を奪われた水素は、荷電した水素イオンH+になります。H+とOH-は結合して水を生み出すこともできれば、原子炉の水素爆発につながることもあります。それだけ、イオンは高反応する分子です。また、一つの電子をOHに残し、もう一つの電子をHに残すように骨組みを壊すこともできます。それは”ラディカル”と呼ばれるいっそう高反応な分子です。これらの高反応な分子を生み出す放射線を電離放射線と呼んでいます。

いずれにしろ、高反応する物質が生まれるわけですが、それは、近くにあるものにすぐに反応して、その化学的性質を変えます。これはとても重要です。体内の物質は、その化学的性質を変えられたら、それによって、大きな生物学的影響が現れるからです。

別種の放射線があります。電荷を持った粒子の放射線で、やはり電子飛跡を生み出します。

原子の真ん中に、たくさんの陽子や中性子で構成される原子核があります。これらの原子核の不安定なものは、自然に壊れていきます。これらの原子核の中で中性子が陽子に突然変わる時、電子を放出します。これがベータ崩壊で、放出された高速電子がいわゆるベータ線です。それは、X線放射線で生み出される電子と全く同じもので、骨組みを壊し、ガンマ線、ファントム放射線、X線などを発します。

また、別の種類のものが放出されることもあります。いくつかの元素から出されますが、それはアルファ線です。電子の代わりに、アルファ粒子と呼ばれるヘリウムの原子核が出てきます。マイナス電荷の電子の二倍のプラス電荷を持ち、とても重く電子の7000倍はあります。

これらは大きなエネルギーを持っていますが、皮膚は貫通しないので、外部的には危険ではありません。しかし、体内に入ると、組織に組み込まれ、細胞器官のDNAを損傷します。

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それはとても危険なことです。高反応する、たくさんの短い電子飛跡を生み出すからです。

これらの放射線はウラン235の核分裂で生み出されたさまざまな放射性核種の原子核が崩壊する時に放出されます。ウラン235はとても不安定な原子核なので、中性子を取り込むと核分裂を誘発して放射性原子核に分裂します。また、水素の中で原子爆弾を爆発させると水素の原子核が結合してヘリウムの原子核になり、大量のエネルギーを放出します。これが核融合爆弾、あるいは水素爆弾です。

ウラン235の原子核が分裂すると、さまざまな核種の放射性原子核が生まれます。いわゆる、セシウム137、セシウム134、ストロンチウム90などの核分裂生成物です。これらの核分裂生成物が危険なのは、電子飛跡を生み出し、DNAと染色体を攻撃するからです。

癌はたった一つの細胞から生じる

また、最近になって、核分裂生成物が、突然変異率を自然に増加させるような有機体を形

成することもわかりました。突然変異とはDNAの損傷により起きます。有機体に正常に届いていたメッセージの一部が破壊されることにより、変異が起きるのです。

例えば、正常な状態では、「猫が座布団の上に座っていた」というメッセージが伝えられていたとしましょう。突然変異が起きたとしたら、つまり、そのメッセージの一部が壊されたとしたら「座布団が猫の上に座っていた」とか「猫がラットの上に座っていた」とか「猫が座っていた」だけになってしまうのです。

このメッセージの破壊は、細胞がメッセージを無視したことにより起きます。また、制御できなくなった細胞が連続的に形成されて起きることもあります。そうやって、癌が発生するのです。

多くの癌研究がなされてきましたが、癌は、たった一つの細胞における遺伝子的突然変異の結果、生じています。どんな癌も、その源はたった一つの細胞に辿り着きます。

このことは、モザイシズムの研究で明らかになりました。私たちのすべての細胞は、父か母に由来しています。例えば、父が黒人で母が白人だとしたら、私たちには、白黒白黒のモザイクがあることになります。

しかし、実際に腫瘍を見てみると、それはモザイクではなく、全部黒または全部白だったことが70年代にわかりました。つまり、腫蕩は、一つの細胞に由来していたわけです。これはとても重要です。いろいろな癌がありますが、最も重要なのは、癌はたくさんの細胞の影響によるものではなく、たった一つの細胞の遺伝子的損傷の影響によるものであるということ。その意味で、バクテリアやウイルスで引き起こされる病気とは違うのです。癌は、たった一つの細胞のDNAが突然変異を起こして生じる特殊な病気なのです。

また、「ゲノム不安定性」と呼ばれていますが、非常に低線量でも、放射線がヒットした細胞の子孫は遺伝子的に突然変異を起こす数が上昇します。さらに、「バイスタンダー効果」という効果もあり、放射線がヒットした細胞のそばにある細胞の子孫も、かなりの割合で突然変異の数が上昇するのです。

どんな理由にせよ、放射線が癌を引き起こすのは事実であり、その源はたった一つの細胞。ゆえに、その一つの細胞が被曝することが問題になります。体内に核種が取り込まれた場合、被曝線量の増加につれて、組織内の細胞の損傷も増加するわけではないのです。一つの細胞が電離放射線にヒットされて、大きな被曝を受けることが問題なのです。放射線のヒットによりどんな影響が出るかは、その細胞の性質や、細胞の寿命期間中のどの時期に放射線を受けたかにもよります。細胞の放射線に対する感受性は、寿命の中で差異が出てくるからです。

核種の中でも、ウランのようにアルファ線を放出したり、ストロンチウムのようにベータ線を放出する放射性物質は、体内に入った時に効果を発揮します。いわゆる、内部被曝と呼lばれるものです。人々が、呼吸したり、食べ物を消化したりしない限りは入ってこないようなセシウム137、ストロンチウム90、プルトニウム239、ウラン238などが入ってくることで、体内が被曝するのです。これらの物質は、体内に入ると、かなりの量が留まってしまいます。

ICRPの間違い

一九四七年以降、ICRPだけでなく、国連科学委員会など放射娘のリスクを分析する機関は、放射線を吸収線量という点で測定してきました。吸収線量とは線量を身体全体で平均化させるアプローチで、「エネルギー/一単位の重量」というとても単純な物理的用語で定義されています。つまり、放射線のエネルギーは、身体全体に均等に移行するという間違った考え方に基づいているのです。

例えば、今、暖炉の前に座っているとしましょう。吸収線量のエネルギーはジュール/キログラムです。体重Xキログラムの人がJジュールの放射線を受けたら、その吸収線量はJ/Xとなるのです。

ジュールとはとても小さなエネルギーの単位で、カロリーあたり四・一八ジュール。ジュールはカロリーの約四分の一です。1カロリーは1ccの水の温度を1度上げるのに必要なエネルギー量ですから、四・一八ジュールで1ccの水を一度上げることができるのです。暖炉の前で50ジュール受けているとしたら、12ccの水の温度を1度上げることができます。重要なのは、ジュールはとても小さいということです。

私は今、木炭が燃える暖炉の前で暖まっているので、キログラムあたりたくさんのジュールを受けています。ICRPの定義に従えば、例えば、この熱い木炭を食べても、身体全体が同じキログラムあたりのジュールを受けることになります。しかし、この場合、エネルギーは一ヵ所、つまり喉だけに集中されているのです。喉以外の身体の部位は、ジュール/キログラムを受けません。

つまり、内部被曝においては、ジュール/キログラムで線量を平均化するというICRPの考え方は全然適切ではないのです。内部被曝の放射線量も、身体全体が受けるエネルギーの一部として計算されているからです。しかし、癌はたった一つの細胞から生じることを考えると、議論すべきは、たった一つの細胞に降りたエネルギーなのです。

例えば、細胞に降りたプルトニウム一つの崩壊により生じるアルファ線の線量は500ミリシーベルトと莫大です。しかし、誰もそのことを指摘しません。それが、被曝量を考える時、大きなエラーの源となっています。

ホットパーティクルの危険性

外部放射性核種と内部放射性核種に被曝する時、その線量はミリシーベルトという量で考慮されています。ミリシーベルトは1ミリジュール/キログラムです。これはとても小さなエネルギーの移行と言えます。内部放射線と外部放射線が同じものだとアセスメント(評価)した場合、私たちが受けている自然放射線量は約2ミリシーベルト/年。これは主に、自然や宇宙から受ける外部被曝です。花崗岩から出される放射性天然ガスのラドンからも被曝しています。

また、体内には、半減期のとても長いカリウム40による自然な内部放射線量もあります。

カリウム40は身体中に均等に行き渡っているので、その崩壊により生じるエネルギーは身体全体で均等に希釈化されていると考えて良いでしょう。

しがし、器官に影響を与えるような物質、例えばヨウ素などにはこれは当てはまりませ

ん。ヨウ素は、甲状腺節に集中するからです。

本当の問題は、DNAが、ストロンチウム90、バリウム140、プルトニウム239、ウラン235、238、234などの放射性核種と結びつくことです。これらの核種は、DN

Aとの化学的親和力が強いからです。そのため、崩壊する時、まさにDNAとともに崩壊し、一つの細胞に多大な影響を及ぼしてしまうのです。

また、核爆発や原発事故により放出された物質のいくつかは、高放射性微粒子(ホットペーテイクル)という形になります。つまり、センウムの原子、ウランの原子、プルトニウムの原子というのではなく、何十億個もの原子の集合体ができて、粒子を形成するのです。大きさは約1マイクロメートル、0.0001センチメートルです。とても微小なものですが、原子よりははるかに大きいものです。

高放射性微粒子は引き続き、放射能を持っており、呼吸や食べ物を通して体内に取り込まれ、肺や胸の組織などの器官に住み着きます。というのは、0.0001センチメートル以下のものは、吸い込むと、肺に入った後、リンパ節にも届くからです。もちろん、これらの高放射性微粒子はチェルノブイリ事故の後にも降下しましたし、福島第一原発からの降下物の中にも存在します。それは、私自身も測定しました。

これらの微粒子は考えられている以上に危険なものです。熱い炭を素手で取った時と同じように。高放射性微粒子は、例えば左胸に入り、その微粒子の周りの細胞に大量の放射線を放つのです。足や頭や右胸など、身体の他の部分にはエネルギーは与えませんが、左胸一カ所だけにエネルギーを集中的に与えます。

しかし、ICRPのリスクモデルは、エネルギーを身体全体で平均化させるという考え方ですから、平均化された量は、乳癌を引き起こすには足りない、ごく微量だと見なされてしまいます。そのため、原発付近で乳癌が増加した時、原発から放出された線量では乳癌を引き起こすことはあり得ないと判断されてしまいました。しかし、現実には、ある一ヵ所にエネルギーが集中的に与えられたために癌が起きたのです。

『細胞上での影響が大きい』へつづく

.............しかし、問題は内部被曝です。外部被曝が二ミリシーベルトであっても、内部の細胞には二O万ミリシーベルト相当の影響を及ぼすのです。そして、そんな大量のエネルギーを受けた細胞が、癌や心臓病などさまざまな病気の原因となります。つまり、個々の細胞に高い線量を与える内部放射性核種が、健康被害を与えるわけです...............